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猿雑記2000年7月19日〜2002年11月11日までのメンバー日記過去ログ
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[434] ケツから小説「レジェンド・オブ・セブン」〜まえがき〜 長谷川 2002-03-19 (Tue) 00:59

 えーまえがきと言う名のあとがきを任されました長谷川です。
「誕生日なんだからお前書けよ。」なんて言われた30才なりたての長谷川でもあります。
今回のケツから小説もやはり、
「最終章からお読み下さい!」
今回は前回以上にグッダグダだったんで、やはあり最終章からグダグダ読むのがお勧めです。
長谷川お勧めオモしろ所は、伝説のくだりね。
ベスト伝説は石倉氏の伝説かな。
ヤツがデカッ鼻にメガネのっけて書いてる姿を感じながら読むとなおよしで!笑えるす。
驚き所は、明水の短さとマギーのまとめ具合ね。
みんなすっごい文章書けんのねー。
俺ホント言うとさー、この企画苦手なんだよねー。
連載とかやってるワリには、文章苦手だしさ。
VAIO使いも全然うまくなんねーでやんの。
一回全部書いてなぜだか消しちゃったりしてるしね、朝方。
いっつもキィーッ!ってなりながら書いてますよ。
人の読むのは超オモシロイんだけどねー、毎日見てたもんココ楽しみで。

 そんで今日!みんなで「またやりたいねー」なんて話した結果、
第三弾やりまあーすよー!
大変でもオモシロイからガリガリやるよー。
しかも今回以上にグダつかせるためだけに、最終回を違うヤツが書くコトになったよーん。
近日おっ披露目っ!おっ楽しみにねいーっ、じゃあ!



[433] ケツから小説『レジェンド・オブ・セブン』 第1章 マギー 2002-03-15 (Fri) 07:01

最悪の朝だった。最悪の目覚めだった。リンゴは15年生きてきた中で、最悪の朝を迎えていた。
思春期まっさかりの野球少年リンゴにとっての今朝の衝撃は、初めての夢精に気付いた朝を凌駕していた。
もちろん夢精は今朝もしていた。そんなことはもはや珍しくはない。いつものことだ。
いつものことではなかったのは、いつものように遅い朝を迎え、いつものように目をこすりながら大あくびをした、その後だった。
目にうつるいつもと違う景色。壁一面に一目で血とわかる深紅の文字によって乱暴に記された言葉。
―「汝、七つの栗を探せ」―

リンゴは甲子園では有名な名門校、智弁和歌山に通う高校球児である。和歌山生まれの和歌山育ち。
林家に生まれた長男で、弟の名がハチミツ。林リンゴと林ハチミツ。リンゴとハチミツ、ハウスバーモンドカレー。
カレーと和歌山、苗字はハヤシ。リンゴの両親が誰であるか言うまでもない。あの忌まわしい事件、消えない記憶。
リンゴは悪党の血をひいていた。体に流れるモノノフ族の血。暗黒面を引き出せば死神すら恐れるモノノフの血。
しかしその力を正義に使えば、この地獄の世を救うこともできるモノノフの血。
リンゴにはそんなスターウォーズのフォース的な、なんかそんなカンジの血がなんか流れてるんだって。
リンゴが自らがその血を引くモノノフ族であると知るのは、まだまだ後の話である。

―「汝、七つの栗を探せ」―
野球推薦で高校に入学し、毎日白球を追いかけるリンゴは、その壁の文字の最初の一文字は読めなかった。
血で書かれた謎の文字……なんかそんなの映画で見た、そうだ『セブン』だ。わりと一瞬にして閃いた。
映画「セブン」の中で、そうしていたようにリンゴは図書館に急ぐことにした。
町の図書館に向かう自転車をこぎながら、ふと不安がよぎる。
「で、なんの本で調べればいいんだ。」
“伝説”という言葉がさっきから頭にひっかかっていた。今日のリンゴは冴えていた。
これが「伝説・其の壱『物語はある朝突然に。けっこうサクサク進む』」だとわかるのは、これまた後の話。
町の図書館に「伝説辞典」や「伝説百科」みたいなものが果たしてあるだろうか。
あった。簡単に見つけた。
古びた表紙の「伝説入門」はワニブックスから出版されていた。マメ本だった。
慌ててページをめくりはじめたその刹那、大きな栗のイラストが目にとびこんできた。
「このページだ!」しかしあまりにもサクサクと進む展開もここまでだった。
栗のイラストだけを残し、そのページは破られていたのだ。「誰が、なんのために。」
ガクンと膝から崩れ落ち、うなだれるリンゴの手元からヒラヒラと一枚の紙が落ちた。
伝説入門から落ちたその紙。―貸し出しリスト。図書館から本を借りる際に名前を明記するそれである。
そこにはたったひとりの名前が明記されていた。「聖・レジェンド学園 3年B組 福漏博士」。
相変わらずなんとお読みしたらよいかわからないリンゴではあったが、この男がページを破った張本人だと、
この男に会いに行くべきだと、いやさ、そのレジェンド学園に転入するべきだと、
一流のシェフが素人の冷蔵庫をのぞいただけでどんな料理を作ろうか決める、あのぐらいのスピードで思いついた。

思い立ったら吉日。リンゴは帰るなり転入の旨を両親に告げた。あっさりと許可してくれた父は
庭にあったなんか棒っきれを「妖刀村正」だと言ってリンゴに押しつけた。
母は「きびだんごを持っていきなさい」と押しつけた。「桃太郎じゃないんだから」と思うリンゴが、
実際、桃太郎的に仲間を集めたりすると知るのもこの後の話。
勢いよく家を飛び出したリンゴではあったが、あまりにきびだんごが重いのがうっとぉしくなり、
その辺を歩いていた野良犬にプレゼントすると、学園目指して走った。これからはじまる物語のために。
ちなみに犬は一目散にだんごを食べ、嘔吐し、震え、死んだ。恐るべしモノノフの母であった。

『聖レジェンド学園』。この学園にすんなり転入したリンゴだったが、伝説の謎を解き始めるまでには、
方言の違いによるイジメなどを経てから、2ヶ月後の話である。

[432] ケツから小説「レジェンド・オブ・セブン」第二章 長谷川 2002-03-13 (Wed) 06:55

(マギー著、第一章から引継ぎ)

「いっけねー遅刻遅刻ぅー」
モノノフの朝は遅い。非常に遅い。リンゴはパンをくわえながら走っていたが、もうそれは「朝食というより3時のおやつなんじゃないかなぁー」ってな具合に遅い朝だった。リンゴは学園へ行くため、いつものように京成バスに乗り、そしてまたいつものように3っつ目の「無限城前」で降り、ボンバータを滅多打ちで倒し、金を巻き上げ、コンタクトを落とし、ボンバータに乗って探させるのだった。
「りんごぉー、俺は今日の遅刻で留年決定ったい!」
ボンバータが下手糞な博多弁でそう言った。ヒロシくんに影響されてるようだ。福漏博士、福が漏れる博士とかいてフクロウヒロシ。彼に福はやってくるのだろうか?いやまず無理だろう、彼には無駄死がお似合いだ。彼はなぜかそんな男だ。
 2人が学園に着くと、校庭ではヒロシ君とチキンジョージがお互いの飼っているインコを持ち寄り、「爆笑!鳥対決」をやっていた。あまりの盛り上がらなさに、見ていた事務員のおヒョイはうたた寝をし、徹夜で大漁旗を作って盛り上げようとしていたサンコンJr先生はがっくりと肩を落としていた。リンゴは腹が立ってインコを平手打ちの刑に処してやった。伝説其の二「爆笑!鳥対決は盛りあがらず、インコは平手打ちの刑をくらうだろう。」リンゴはココリコに比べるとかなりあっさりと伝説を達成してしまった。リンゴはつまらない男だ。番組には決してならない男であった。
「さっ、ザリガニでも採りに印旛沼行くかぁー」
リンゴが校庭を後にしようとしたその時、一人の美少女が叫びながらリンゴ達の方へ走って向かってきた。
「リンゴくぅーん!待ってぇー!」
「んだよおめえはよぉー!」
「もーう!待って...うっ!」
「あんだよ、こえーよ!」
「ちょっぴりオエっちゃったぁ!むふ、でもダイッジョービッ!」
上村ひろみ、我がセント・レジェンド学園一のメガネ美人である。メガネを取ったら三都主・アレッサンドロによく似ている、そんな女の子だ。
「ズーラが呼んでるわよっ!」
ズーラが?なぜ?ズーラはこの街唯一の芸能人だ。学園脇のプレハブで少年たちにマジックマッシュルームを売ったりもしている。リンゴは事情はわからないがとにかくそこら辺のヤツらを引き連れプレハブに向かった。

「リンゴよ、お前は何をしておるのだ!貴様はここに来て3ヶ月、全て忘れてしまったのかい?」
ズーラはかつての女戦士時代の衣装を身に纏い、仁王立ちしていた。
ズーラのその言葉にリンゴは心臓を冷たい手でギュっとされたような感じがした。そうだ!俺は学園で思春期を過ごすためにここにいるんじゃない!伝説の栗を探し、鬼神チョカリヤを倒すための旅の途中ではないか!選ばれし民を見つけ、この印旛に、いやもしくは成田、はたまた水戸、大きなコト言えば郡山などに平和をもたらすための旅の真っ最中なのだ!リンゴは強い目をしてズーラを見た。
「そうじゃいリンゴよ、思い出したようじゃな。では早速旅じゃい!まずは赤坂にあるオールスター感謝祭村へ行けい!そしてそこでマラソン大会に出て、おいしい料理を休憩時間に食べ、色んな芸能人に挨拶をし、とにかく名前を画面に写すためにギリギリにボタンを押したりするのじゃい!」
リンゴはもう迷わない。マジックマッシュルームでフラフラになったひろみ以外のヤツらを半ば強制的に引き連れ、いざ赤坂へと足を進めたのであった。

 感謝祭村には数多の芸能人らがひしめき合っていた。サンコンJrはオスマンサンコン氏を見つけ、初対面、お互いのサンコンっぷりを熱弁していた。リンゴ達は迷わぬよう全員同じ赤いツナギを着た。一同に緊張が走る。前の席のヨネスケ師匠が鈴木ヒロミツ氏と仲良さそうに話しているのだった。
「とにかくマラソンで目立とうぜ!」
全員の共通意識だった。喋れなくてもいい、なにか一つだけでもここにいた証が残せれば。もはやなぜここに来たのかはどーでもよくなっていた。リンゴ達は紳助氏のスイッチオンの声に一斉にボタンを押した。ヒロシは運悪く機械の故障、ズーラはほとんど使わないボタン6を1と間違えて押してしまっていた。結局走るのは5人、リンゴ、チキンジョージ、ボンバータ、サンコンJr、おヒョイになった。5人は前半飛ばしすぎたため、結局心臓破りの坂で歩いてしまった。疲れただけのこの村。ここには何にもない。なぜここに来たのだろう?なぜ人は走るのだろうか?もはや何事も全くわからなくなってしまったリンゴは、沿道にいた通行人の横山さんを連れ、みんなの所へ戻った。
「この人は横山さん、でも呼びづらいから今日からこの人はでん助ということで!んじゃみなさん!先へ急ぎますか!」
精一杯明るい声を出し、疲れきったみんなを盛り上げようとしたリンゴもすでにボロボロだった。
「何処かで眠ろう。」
そう強く心の中で思うリンゴであった。

[431] ケツから小説「レジェンド・オブ・セブン」第三章 坂田聡 2002-03-12 (Tue) 02:50


(長谷川著、第二章から引き継ぎ)

「俺おまえのことすいとーとばい」
博多弁で<俺はおまえのことが好き>の意である。この言葉を何度フクロウ博士は復唱したことだろうか。
りんご、でん助、チキンジョージ、ボンバータ、サンコンJr,おヒョイ達が、オールスター感謝祭村でのマラソン大会で
くたくたになり、いびきの6重層を奏でている間に、フクロウ博士は少し距離を置いて寝ていた女戦士ズーラの所へ近寄り
彼女の耳元でその言葉をささやこうとしていた。
伝説其の三「フクロウは女の趣味がマニアックである」
女戦士ズーラ・・・・・むかしはかっこよかった。長髪を振り乱し鮮やかに剣を操る様は世の男性達をとりこにした。
芸能界にもスカウトされ、将来は松岡きっこ的なスタンスでお茶の間をにぎわせてくれるだろうと期待されていた。
しかしその後ズーラ印のダイエット剣を調子に乗って売り出すも全く売れず、夫のサモハンキンポーには逃げられ、
女子プロに入るも、剣なんか使っちゃダメとおこられ、自分の味を出せぬまま引退。
その後は「あの人は今・・」的な番組にちょくちょく呼ばれ、その出演料でひっそりと暮らし、今年で116歳である。
昔の豊満なバストは何処へやら、今では乳首がひざの下に位置する。健康のために服は着ない主義なので、
丸裸で自分の胸を枕にして、森の中で寝ているその姿は、おぞましい限りだった。

そんなズーラのことを好きなフクロウ博士。困ったものである。「あーもうどうにでもなれー」などと
わけのわからない寝言をいうズーラの耳元にしゃがみこもうとして乳首をふんずけてしまったフクロウ博士。
「あっ、ごめん痛かったかい」フクロウ博士、初めての標準語である。
「まー痛かったか痛くなかったかで言うと痛かったけど、もう神経無いから別にいいずらよ」
寝てるところを起こされちょっぴり不機嫌なズーラである。
「俺おまえのことすいとーとばい」フクロウ博士初めての告白である。
「えっ、すいとーがどうしたずらか」
「すいとーったい」
「はぁ?夜遅いから明日にしてくれないずらか」わきが無償に痒いらしく血が出るほどに掻きまくるズーラ。
「おまえのことがすきったい」
「すきって、えっわたしにいってるずらか?」わきからドボドボと血が滴り落ちるズーラ。
「そうたい」
「すきって言われても・・あっそう・・でももう116やし、もうそろそろ死ぬし、生理あがってるし、
まー気持ちだけいただいとくずらよ」血を流したまま床につくズーラ。
フクロウ博士初めての失恋。号泣する博士であった。

「泣いてる子はおらんかー」なまはげバリに炎の悪魔イフリートが夜の静寂を切り裂き舞い降りた。
ふくろう博士輪をかけて号泣である。イフリートの火の粉がズーラの乳首に飛んできた。
「あち―この野郎」さっきまで乳首には神経が通ってないから痛くないといってたのにと困惑気味のフクロウ博士である。
「乳首が丸焦げズラ」怒ったズーラ、イフリートに立ち向かうもあえなくダウン。
乳首からは黒い煙がたっていた。

イフリートの登場に目を覚ましたサンコンJrとおヒョイさん。慌ててズーラのもとへ駆け寄った。
最後の声を振り絞り、ズーラが「迷いの森に行ってどんぐりとって来て。それを乳首に・・・・」
ズーラが死んだ。「どんぐりを乳首にどうしろって言うんだよ――――――」
泣き叫ぶサンコンとおヒョイ。フクロウ博士はもう涙も枯れ果ててまっ白になっていた。
「ズーラは死んでしまったけどどんぐりは探しに行こう。それが俺達がしてあげられる唯一のことだ」
かっこよくおヒョイが言う。
「そのどんぐりを乳首にどうすればいいのかな?」腕を組むサンコン。
「な―んかそえりゃいいんじゃないか」あんまり考えてないおヒョイ。さっさと森の中に消えていった。
「りんごも迷うわけねえって、迷いの森の入り口に立てかけてある看板につっこんでたし大丈夫か」
その後をおってサンコンも消えていった。

朝になり起きたほか4人。迷いの森に消えていく足跡はまさにサンコンとおヒョイのものだ。
リンゴはやっぱりリーダー格。足跡を見ただけでおヒョイの後にサンコンが森の中に入っていったところまでは察しがついた。
慌てて森に向かって2人の名前を呼ぶリンゴ。

[430] ケツから小説「レジェンド・オブ・セブン」第4章 木下明水 2002-03-10 (Sun) 02:00

(坂田著・第3章から引き継ぎ)

 「迷いの森」からは何の返事もなかった。まさか「おヒョイさん」に続いて「サンコンJr.」までもが「迷いの森」に入って迷ってしまうとは。デン助はあらんかぎりの声で叫んだ「サンコーン!!!」と。やはり漆黒の森からは何の返事もない。ただ無気味に葉を揺らすだけだった。やはり立て看板に「ここは迷いの森、必ず迷います」と書いてあったのは本当だったのだ。「俺があの時、立て看板を信じればこんなことにならなかったのに」とリンゴは涙を流した。リンゴは今17歳、そういう「芝生に入るな」的な社会ルールに反抗したがるお年頃だったのだ。
 これでメンバーはリンゴ、デン助、フクロウ博士、ボンバータ、チキンジョージの5人になってしまった。116歳の「女戦士ズ−ラ」と30歳の「サンコンJr.」、それに高齢の「おヒョイさん」がいなくなってこのグループは平均年令15歳になってしまった。そう思春期真っ盛りのグループになってしまったのだ。若い皆は必死で「迷いの森」に叫ぶ、精神的支柱であったサンコンJr.の死は彼等には受け入れ難かった。「ササササ、ササササ、ササササ、サンコン!」とウルフルズのライブで行われるように指をさして呼んでみても帰ってこない。試しにとリンゴが「ケケケケ、ケケケケ、ケケケケ、ケイスケ」と呼んでみたらウルフルケイスケがひょっこり顔を出して笑顔のまま消えていった。伝説の妖精ウルフルケイスケ。ちょびっとの登場時間であった。

 その夜、ゴルギアスの池のそばで5人はテントをはった。重苦しい夜空が彼等の気持ちをも重くする。誰も話し出さない。ただ焚き火が全員の顔を照らすだけであった。伝説の栗はいまだ3個しか集まっていない。「栗はどこにあるんでげすかねー」デン助が栗をいじりながら疲れたように言った。その時、まさにデン助が栗をいじった瞬間に、栗のそばに野生のリスが現れた。全員が息をのんだ。そのリスは何も栗を奪おうとしたのではない、ただ栗のそばに立っただけだ。皆が息をのんだ理由、それは「栗」と「リス」が一緒に目に入ったからだ!リンゴがボソッと言う「栗とリス」と。その一言が皆の重苦しい雰囲気を吹き飛ばした。そして修学旅行の夜的なY談に発展していった。「栗とリス」とチキンジョージが言えばボンバータが「ウホホ」と笑う。さすが平均年令15歳、思春期真っ盛りだ。皆がくだらないY談で己のテントをはった瞬間、3つの栗がそれぞれ2つに割れた。そう焚き火の熱で2つに割れたのだ。つまり6つになったのだ。そうこれが伝説其の四「物語の展開上、急に栗が手に入ったりする」だったのだ。残るは後一つの栗だけとなった。その夜、皆は栗の倍増に喜び、テンションが上がっちゃってクラスの誰が好きかという話までに発展した。皆が好きなのは「セント・レジェンド学園」1のメガネ美人「上村ひろみ」ということが判明した。

 「こげん簡単に栗が手に入るとはえらい急ピッチばいね。」フクロウ博士の声が響く翌日のお昼時。5人は山道を歩いていた。すでにハイキング気分で歩く5人。思えば旅は厳しい道のりだった。女戦士ズ−ラの謎を残す死に方、フクロウ博士とチキンジョージの鳥対決、サンコンJr.とオスマンサンコンの初対談、リンゴのコンタクト紛失事件、ボンバータの留年と色々あった。そんな辛い思い出も嘘のようだ。この旅始まって以来の皆の笑顔かもしれない。どれくらい歩いただろうか、何度リフトに乗っただろうか、何度高尾山饅頭を喰っただろうか、5人は怪しい店の前にいた。山の頂上付近の峠の茶屋的お店。ぼろぼろの看板に『ンババの焼き栗ショップ(「最後の村」支店)』と書いてある。店の壁には大きめの紙が貼ってあり、ポスターカラーの蛍光で売り文句がつづられていた。「うまい!安い!早い!伝説!」と。5人は驚いた。「もしかしたらここの焼き栗は伝説の栗かもしれない」誰もがそう思った。なんせ売り文句に「伝説!」と書いてあったのだから。今17歳のリンゴも第二次反抗期を終えたのだろう、「迷いの森」の立て看板を信じなかったリンゴがこの「伝説!」の文字を信じたのだ!リンゴ17歳、成長したと言えるだろう。
 「はい、いらっしゃい」ンババらしき婆さんが、気持ち良く応対する。さらにンババはこう続けた。「この焼き栗の中になんと伝説の栗があるかもしれんでよ。さあさ、よってらっしゃい喰ってらっしゃい。」なんともスピーディーな展開だとフクロウ博士は思った。今回は長く書くつもりは無いのだなとリンゴは天にキッと顔を向けた。とにかくスピーディーだ。チキンジョージが店の入り口のドアに翼をはさんでブルーになった。そんなのおかまいなしにデン助が飛び出した。

[429] ケツから小説「レジェンド・オブ・セブン」第5章 六角 2002-03-09 (Sat) 07:25

(木下著・第4章から引継ぎ)
「よぉーし!!やったるでやんすよー!」デン助は鼻息も荒く焼き栗の山にとびかかった。
この最後の村、<世界の果ての村>を抜ければ目指す<帰らずの荒野>にたどり着けるというのに、
リンゴ達は最後の七つめの栗を手に入れてもいないどころか、<選ばれし者>その意味さえをわからずにいた。
「危ないな…。」リンゴの横で鳥人族のチキンジョージが切れ切れに呟いた。
ふと我に返ったリンゴが見れば、デン助は信じられないぐらい焼き栗を…食ってなかった。
「ぐぇーっぷ。もうオイラだめでやんすよ〜。豆だったらまだよかったんでやんすけど…」まったくくちばかりだった。
自慢の出っ歯にはこれまた信じられない焼き栗の食いカスがついていた。ちょっと黄色いな…。
ンババもこれまた見事に黄色い歯を見せて不敵に笑った
「ひっひっひ〜どうするんだい?伝説の栗はこの山のどこかにあるんだよ〜」
「ならば俺が相手だ!!」
チキンジョージは言うが早いか焼き栗の山に踊りこんだ。
「そ、そうか…う、うまい!」フクロウ博士が叫んだ。
そう、チキンジョージのくちばしには歯がなかった。さすが鳥人。焼き栗は全て丸呑みだった。
見る間に山が崩されていく。と、その瞬間チキンジョージのとさかがブルブルふるえた。
「グキュウ…ゥグ!!」
「どうしたあ!チキン!」ボンバータが駆け寄ると、チキンジョージはもはや最後の力でこう応えた
「…どうやら見つけたようだ…お前達と旅を共にできるのも俺にはここまでのよう…だ」
「チキィィーン!」リンゴが抱き起こしたチキンジョージの口からは伝説の七つの栗の最後のひとつ、
<オグリ>が、なんかねっとりとしたものといっしょにこぼれ落ちた。
「ひひんにょふぁひひ〜!」デン助も口いっぱいの焼き栗をまきちらしながら泣いた。
「…翼を傷つけたチキンは、どうやら死を覚悟しとったんやね…」
フクロウ博士は首をしきりに縦回転させては目をしばたたいた。
こうして伝説・其の五『呑みくだす力のないものが地に堕ちる』はおこなわれたのだった。

約束どうり賭けに勝ったリンゴ達は焼き栗売りのンババから栗を得た。チキンジョージの命と引き換えに。
「このババァはどうする?リンゴ」ボンバータは咆えるようにリンゴに尋ねた。
「おたしゅけくだしゃいご主人しゃま、もうワルさはいたしましぇんだ。
大鬼神チョカリヤの秘密もお教えしましゅから、どうか命ばかりは…」
「なぬ?!チョカリヤの秘密じゃと!!」フクロウ博士がオウム返しにくりかえす。
「はい。チョカリヤ様は七つの栗の力でスーパー大鬼神チョカリヤになるおつもりなのです!」
「スーパー大鬼神チョカリヤ!!」今度は全員が見事なユニゾンでかえした。
「スーパー大鬼神チョカリヤ…伝説によればその身は白熱に発光、巨大化し
素手で炎が投げられるようにパワーアップするという…」
フクロウ博士は驚愕の表情を隠せなかった。リンゴ達は『このばばぁつかえる』ということで
とりあえず拉致ることにし、<世界の果ての村>にチキンジョージを埋葬。
いよいよ<帰らずの荒野>にたどり着いた。
「ここが<失われし神々>の聖地<帰らずの荒野>ぜよ!」フクロウ博士がいきり立って叫んだ。
確かに伝説のとうり巨大な奇岩群が荒野に散在し、
それは時と共に風化した失われし神々の偶像のようにリンゴには思われた。
「HATITIJIDAYOOOO!!」鋭い奇声が辺りの静寂を破るのとボンバータの「あ、やべ…」
という思わず漏れてしまった的な声をリンゴが耳にしたのはほぼ同時だった。
リンゴの目の前に巨大な岩が落下し、その下からは見覚えのありすぎるボンバータの、
裏だけが白い褐色の脚がのぞいていた。

[428] ケツから小説「レジェンド・オブ・セブン」第6章 石黒 2002-03-07 (Thu) 23:45

(六角君・第5章より引き継ぎ)

「ボンバータァー!!」
リンゴは力の限り叫んでいた。それは虚しく帰らずの荒野に響くばかりだった。無限城であんなにも激しくリンゴと戦った褐色の魔人ボンバータがこんなところで死ぬとは思えなかった。しかし、ボンバータは岩の下敷きになって死んだ。この事実は決して覆されることはない。
「フフフフフフフ、、、。」
突然、耳障りな笑い声が響きわたる。その声は、ンパパの口から、洩れていた。
「ンパパ、お前がまさか、」
リンゴは力なく声を発する。
「あにき、どうしたでやんすか。」
デン助がまぬけな声を発する。
「わたしのせいではありませんとよ」
フクロウ博士がおびえた声を発する。
「そうだ、私こそが、チョカリヤだ!今まで、七つの栗を集めてくれたことを感謝するぞ。」
ンパパの小さいからだが一瞬、闇に覆われると、そこには宿敵チョカリヤが生まれたばかりの仔馬のように足を振るわせながら、立っていた。
伝説その六、「飼い犬に手をかまれるとはこういうことをいうんだね」とは、このことをいうんだね。
「七つの栗を集めた貴様らのために、わたしの最大の魔術で葬ってくれよう!」
そう言うと、チョカリヤは予言どおりのその分厚い唇から、失われたエトルリア人の魔法を唱えはじめた。
「OIIIHHHHSSSSU!!!」
その、気合いの烈拍によって、デン助は岩にふっとび、フクロウ博士は、とっくの昔に逃げていた。
リンゴはかろうじて、モノノフ族につたわる妖刀村正に助けられ、無事であった。
「ぐっ、このままでは、いままで死んでいった者達に申し訳がたたない。しかし今はまだ選ばれし民もいない。」
そのとき、村正があやしい光をだしはじめた。
「こ。これがあの村正!?、いや、違うこれはエクスカリバーだ。これで、チョカリヤを倒せる!URARARARARARA!」
リンゴは雄叫びをあげながら、チョカリヤに向かって切り込んでいった。

どれぐらいの時間がたったのだろうか?、1日?、1時間?、いや1分?リンゴとチョカリヤは互いの全てを出して切りあっていた。
リンゴにはわかっていた、自分の命がないことを。エクスカリバーをふるう度に自分の魂がなくなていくことが感じていた。伝説その6・5「選ばれし民以外はつかっちゃ駄目よ。」しかし、いま選ばれし民がいない以上、リンゴがやるしかなかった。リンゴは死を覚悟して、エクスカリバー最大の奥義「破矢苦血弧闘場」を放った。
「桃喪巣藻腿・・・・」
エクスカリバーはリンゴの甘い蜜である魂をすいながら一直線に、チョカリヤの心臓へと尽き刺さった。
「HATITITIJHIDAYoooooo!」
断末魔の叫びをチョカリヤ、そのあしき魂は自らの故郷の地獄へと帰っていった。

[427] ケツから小説『レジェンド・オブ・セブン』最終章 マギー 2002-03-06 (Wed) 04:46

(石黒著・第6章より引継ぎ)

ついに大鬼神チョカリヤは倒れた。激しい地響きとともに。
雷鳴と強風がピタリと止み、砂の霧がゆっくりとはれていく。
デン助は岩場から顔を出すと、リンゴにまっしぐらにかけよった。
「兄貴ぃーーー大丈夫でやんす……あ、あにき?」

リンゴは動かなくなっていた。チョカリヤをしっかりと見据えた眼差しのまま…・。
「うわぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!。」デン助は全身の力をこめて泣き叫んだ。
「いくつかの犠牲はやむないと覚悟はしていたが……ここまでとは。」
フクロウ博士はリンゴの亡き骸の前にひざまづくと、そっとリンゴの瞳を閉じた。
「モノノフ族として最後まで立派な戦士じゃったばい。ワシがこの七つの栗を使い道を知っていれば……。」
フクロウ博士の落とす涙が乾いた砂を濡らした、そのときだった。
博士の手の中の七つの栗が光りを放ちはじめ、みるみるうちに空へ舞いあがった。
七つの光りは上空をクルクルと旋回すると、閃光を発しながらほうぼうに飛んでいき、
そしてそのひとつの光りはリンゴの体へと吸いこまれていった。
「な、なんでやんすか?」
「こ、これはまさか……“伝説・其の七”、『選ばれし者は復活す』とね?」

光りを孕んだリンゴの体に血の気が宿り、フクロウ博士によって閉じられたまぶたがゆっくりと開くと、
甦ったリンゴはまぶしそうにパチパチと瞬きをした。
「チョ、チョカリヤは?」リンゴは博士の顔を見つけるとかすれた声で尋ねた。
「死んだばい。お前さんと相打ちでな。」
「相打ち?でもオレは……。」
「まさかお前さんが“選ばれし者”とはな。」
デン助がクシャクシャな笑顔でリンゴにすがりつき、そして大声で泣きはじめた。

「終わったようだな。」聞き覚えのある声に見上げると、そこには
翼を広げたチキンジョージが空から3人に向かって微笑みかけていた。
「ジョージ!おまはんも!」驚くフクロウ博士の後ろで巨大な岩が持ちあがり、ボンバータが現れた。
「いやー死ぬかと思いましたよ。」
「ボンバータは死んだんじゃ!!」信じられない様子の博士をよそに、選ばれし3人の戦士は再会を喜びあっていた。
「オイオイ、アタイを忘れないでおくれ!」
女戦士ズーラがイフリートによって折られた槍も生々しいその姿で遠くからやってくるのが見えた。
「この様子じゃ…・おヒョイもサンコンJRも復活しとるとよ!」
フクロウ博士もまた、仲間の生還に肩を震わせていた。
「まさか、ワシラ全員が、偶然に集まったワシラ全員が、選ばれし者とは……これぞ真の奇跡ばい!!」

「ちょっと待つでやんす!七つの栗、復活したのは6人、オイラたちは8人…・。
じゃー、じゃーあとひとりの“選ばれし者”は?」
リンゴは横たわるチョカリヤに目をやると、その巨体にかけあがり、
突き刺したエクスかリバーを引きぬくと大仰に剣をかざした。
「もちろん、………お前だ。」
デン助を指した剣の前に、フクロウ博士が割り込む。
「これはこれはリンゴ様、私のような者を……。」
「アンタじゃないですよ!!」
笑いながらボンバータが力まかせにフクロウ博士の後頭部を張り倒した。
フクロウ博士は顔面から地面に叩きつけられると、そのまま動かなくなった。
「相変わらず力の加減ができないやつだな!」
選ばれし5人の笑い声は、再び訪れた平和を祝う鐘のように、いつまでもいつまでも止むことはなかった。
「さて、迷いの森をさまよってるサンコンとおヒョイを探す旅へ出発だ!」
今、戦士たちの終わりなき旅が、また始まろうとしていた。
                                                                  ―完―

[426] 第2弾!! マギー 2002-03-06 (Wed) 04:38

さて!大好評だったケツから小説(メンバー内で)。
またやって欲しいという声も多いようなので(メンバー内で)、
第二弾スタートです。拍手!(メンバーのみ)

今回はさらにしんどそうな題材にしてみました。
どうなることやら、前回の反省もそこそこにスタート。
楽しい深夜の小説家ごっこ、みなさん(主にメンバー)お楽しみに!

[425] ケツから小説『深海戯夜(しんかいぎょ)』 ―まえがき―  マギー 2002-03-01 (Fri) 04:05

まえがき、のようで結局あとがきなわけですが。
どんなことになるか、全くわからないままスタートした「ケツから小説」。
今、はじめてこのページにたどりついた方、久しぶりにこのページをのぞいたら小説?なんて驚いている方、

「戻って7話から読むことをオススメします。」

1話から読んだら普通の小説になるかな、と思って始めてはみたものの、
やっぱり「ケツから」の意味がデカイ。そこが楽しみどころだね。
アタマっから読んでもちーっとも面白くないんだ。これが。
でも、どんな話になるのやら、と思って読みつつも話は戻っていってる。っちゅうのは、
けっこうな発明だったのではないでしょうか。毎日マメに読んでくれてた方は
楽しかったのでは?少なくとも書いてるオレらは楽しかったよ。
ちなみにメンバーとは、どんな話にするかっちゅう打ち合わせは一度もしてないし、
次、誰を指名するかってぇのも決めてなかったので、毎日、ドキドキして読んでましたから。
メンバー一同、夜中の小説家ごっこ、馳星周ごっこ、かなり楽しみましたんで、
またやろーかなーって思ってます。今度はまた違うタッチでね。

全ての話が出来あがったところで、もう一度ケツから読みなおし、
誰が戦犯なのか。誰がどこで伏線にふれなかったのがいけないのか。
誰がどこで話を変にふくらませてしまったのか。
つまるとこ、誰がこの話をつまらなくしたのか。
そのへんの犯人探しをしてみてください。

ちなみに弥生はいつどこでどうやって記憶を失ったんでしょうか。
結局誰も触れねーでやんの。

[424] ケツから小説『深海戯夜(しんかいぎょ)』 第1話  マギー 2002-03-01 (Fri) 03:37

「夜の嵐は、船を深海の底へ誘う。」
                 ――キム・ウェンジョン『魔人遁走曲』

夜の街、新宿。この闇のかけらもない街にこそ、人間の心の奥底に沈む闇が広がっている。
そこで生きる人々は、そこでしか生きられない形へとあるものは進化をとげ、そしてそのほとんどが退化をとげる。
それは丁度、深海で生きる魚たちが退化と進化を繰り返し、太陽の光を浴びて群れをなす美しき魚とは似ても似つかない、グロテスクなフォルムを持つことに等しい。
一度その形態にメタモルフォーゼしてしまった人間は、やはり深海魚たちの背負う運命と同じように、再び太陽の光を浴びることはできない。
そして、その者たちが手を染める生業(なりわい)が闇の商売と呼ばれるものである。
闇風俗、闇金融、闇賭博、闇医者………、闇の世界で生きる人間の数だけ存在する闇ビジネス。
猫崎もそんな闇社会で生きる男である。

猫崎の生業は『闇のアクター』。闇社会でのエンターテイメントを一手に引きうけた男である。
「劇団・闇の遊眠社」、これが猫崎の所属する集団の名前である。言葉遊びを巧みに使った戯曲を役者たちが縦横無尽にかけまわって熱演する、
ここまでならなんら一般的な芝居ではあるが、違うのはそのラストシーンである。必ず登場人物は殺されるラストを迎える戯曲、そこに演技はない。つまり、二時間のストーリーの末に観客が見るものは、―殺し合い―、なのである。
その奇抜なコンセプトで闇社会での噂は一気に広がり、毎ステージで噴き出す本物の鮮血を見にやってくる酔狂な客の足は途絶えたことがなかった。
猫崎は「闇の遊眠社」の看板役者であった。そして脇を固めるキム・ウェンガ、作・演出莫山先生、この3人のトライアングルは次々に名作を闇劇界に生み出していった。
しかし闇の遊眠社も、一般的な劇団がそうであるのと同じように、ある時期をきっかけに空中分解をはじめ、現在はほぼ解散状態となっていた。

猫崎は思案していた。解散状態となった今では、芝居のギャラで生活していくことはできない。
上の世界も下の世界も、仕事のない役者は乞食同然である。納得のいかないアルバイトはある。そこでのアガリは少なくはない。このまま闇のアクターから足を洗い、
アルバイトを本業とする手もある。しかし猫崎は生涯役者でありたかった。
自分で新たな集団を結成することも考えてはみた。劇団名は「猫マップ」「猫の闇ホテル」「闇ニャ―」……そこまで考えてやめた。

「バイトの時間だ…・。」
猫崎はベッドの脇の時計に目をやると、のっそりと起きあがった。猫崎の納得のいかないアルバイト、それは殺し屋稼業である。
闇のアクターとしての演技力、変装力、たぐいまれなる身体能力を評価された猫崎には毎晩殺しの仕事が舞いこんできていた。
今日の標的の写真と、居場所を書いたメモを壁から無造作に剥ぎとる。
標的は珍県民、野々村組と癒着し新宿でも幅をきかせた香港マフィアである。いつもの、なにも珍しくない、殺されて当たり前の標的である。
猫崎はこのバイトをやっていて反吐が出そうになることがある。それは常に「悪のために悪を絶つ」仕事だからである。
これが正義の為に、というのならいくぶん気分も爽やかになるのだが、闇の世界ではそんな甘いストーリーは転がってはいない。
今回の依頼者もクサレ外道であった。自分の義娘に売春をさせ金を稼いだ挙句、娘が“標的”珍県民のいきすぎたスペシャルSMプレイによって殺されたというのだ。
その少女には同情できるが、どいつもこいつも………。猫崎は依頼者のクサレ親父の顔を思い出すと、一気に食欲が減退し踊り食っていた白魚を少し残した。
猫崎は鏡の前にたち、入念にメイク、そして変装をほどこしはじめた。この時間だけは役者気分にひたれる、大好きな時間だ。
今日はいつも以上に気合をいれるか。猫崎は和田アキコの名曲を鼻歌で唄いながら、さらに眉ペンを持つ右手に力をこめた。
「あの鐘をならすのはアナタぁ〜」
フルコーラスで唄い終わったとたん電話が鳴る。着信は依頼人のクソ親父だった。
「おおおおおおお願いしますよ、ねねねねね猫崎さん、むむむむ娘の…」
親父の口臭が受話器からも匂ってきそうで、腹の中の白魚が踊った。
「ででででであのですね、やややややつに娘と同じだけの恐怖を味わってもらいたいって思いまして、ののののののの野々村組に脅迫電話いれときましたぁげへげへ。」
これだからケンカ慣れしてないクソ親父は困る。本当に殺って欲しいのか?お前のおかげでリスクは膨大にふくれ上がった。終わったらテメェも殺すぞ。
そこまで出かかった言葉をクソ親父の「ギャラは3倍にしますから。」という名文句が止めさせた。
猫崎はクンと鼻を鳴らして返事をすると電話をきった。
予告殺人は久しぶりだ。まぁ舞台の上は全て予告殺人のようなものだったが。猫崎は昔を思い出すとムショウに苛立ちはじめ、逃げるように部屋を出た。
「クールになれ、クールに。」大好きな映画『ウエストサイドストーリー』の台詞を呪文のように唱えながら標的の居場所まで全速力で走っていくことにした。

その猫崎の後ろを黒い影が、やはり全速力で追っていた。

[423] ケツから小説「深海戯夜」第2話 石倉 2002-02-27 (Wed) 20:18

(マギー著第1話から引き継ぎ)

「珍さん、あんたは闇のアクターの恐ろしさをしらない。素直に香港へ帰った方が身のためですよ。」
新宿のホテルの一室で野々村組組長、神林はそのアフロヘアの頭をかきながらいった。
「うちとしては、あんたに死なれると困るんでね、いまもこのホテルの回りは俺の部下で固めてるが、やつはアメリカの大統領ですら、恐れる男ですよ。」
「ダイジョウーブ、ダイジョウブ、組長、心配シ過ギネ。コッチニハ中国4000年ノ秘技ガアルネ。
アンナヤツヒトヒネリヨ。ソレヨリ今日ハ本物ノ女子高生ヲ連レテキタダロウネ?」
珍はその醜悪な巨体を振るわせながら、フグフグとなにやら音を出している。それが笑い声だと神林にわかったのは、つい最近のことだ。「エロブタ」と心の中で悪態を尽きながら、
「ええ、今日も上玉です。しかし珍さんこれが終わったら香港に帰りますからね。それとくれぐれもこの前みたいなことがないように。」
「ワカッテルワカッテル、イイカラデテイクヨ、コレカラ楽シミノ始マリネ」
神林は部屋を出るとため息をついた。あいつは何もわかってない。まあいい、契約はもう成立してる。向こうからは、麻薬および武器、こっちからはココム(対共産圏輸出統制委員会)で禁止されている日本の電化製品を。電化製品がミサイルに組み込まれようと知ったこっちゃない、新宿は常に戦争状態だ。資本はあればあるほどいい。あとはこいつを無事に帰せばいいだけだ。そう自分を安心させて神林は車に向かった。途中コートを着た大柄な女とすれちがった。珍にはああいう女の方が似合ってる。上玉なんてもったいねー話だ。女をみながらそんなことを思い、待たせておいた車に乗り込むと神林は事務所へ岐路についた。

珍は待っていた。毎度日本にくるのはやめられない、祖国では考えられない食事や娯楽。地図上ではわずかしか離れてない国だがこれほどまでにちがうとは。それになんといっても、夜がたまらない。新宿には手にに入らない女はいない、いや男もか。あと何回か契約を成立させれば、日本で暮らすことができる。そのために危険を犯してまで横流しをしてきたのだ。国に戻れば、それなりのポストが用意されるだろうが、沈みかけた船にのる馬鹿はいない。日本で楽しく暮らすのだ。
「ピンポーン」
どうやら女が来たらしい、はやる気持ちを抑えつつドアを開けるとそこにはまさしく珍好みの女が立っていた。
「オオ、早ク入ルネ、最後ノ夜ニ神林モキガキク。」
女は慣れていないらしく、ゆっくりと恥ずかしそうに部屋に入ってきた。それがまた珍の欲情を燃え上がらせる。
「緊張シテルノカネ、心配シナクテイイ、中国4000年ノ秘技ヲミセテアゲルネ。コノ前一人オカシクナッチャッタケドネ。」
「いやっ」と女がびくっと体を震わせる。珍は女をベッドルームに連れていくと、そこにはありとあらゆるSMグッズがおいてあった。「ふぐふぐ」と笑いながら女の服を脱がすと。
「制服・・・、シカモ時ヲカケル少女ノ原田知世ガキテタ奴。神林メ、タマランバイ!」
珍が片手でロープをもちながらグローブのような手で女をベッドに押し倒そうとした瞬間。
「そこまでだ、珍県民。」
珍は一瞬どこから聞こえたのかわからなかった。部屋の中を見渡すが誰もいない。
「ここだよ、ここ」
珍はぎょっとして自分の腕の中にいる女をみる。・・・まさかこの女。
女はスルリと珍の腕の中から抜け出ると制服を脱ぎ捨てた。するとそこには精悍な一人の男が立っていた。
「俺が闇のアクター猫崎だ、名演技だったろ」

神林は車の中でサウナって英語なのかな?と考えながらサウナに入りてーなと思っていた。
「組長、お疲れのようですね。やっぱり珍のせいですか?」
運転手の松村がいう。
「ああ、あいつとの取引はいつも気持ちがわるくなる。」
ちっ、せっかく忘れかけてたもの思いださせやがって、こいつは運転手、首だな。
「しかし、今日の夜の珍の相手すごいっすね、あんな女見たことないっすよ」
今日、珍の相手の女は組の系列のキャバクラ嬢だ一応16才だが松村がいうほどじゃない。
「へー、そんなに気にいったんなら、あとで回してやるぞ。」
「何いってるんですか組長。あんなでかい女勘弁してくださいよ」
神林は硬直した、まさかあの時の女が・・・。なおもしゃべりつづける松村に。
「おい、その女って駐車場で俺とすれちがった女か?」
「はい、そうですけど・・・。」
おかしい、俺が予約しておいた女と違う。あんな大柄じゃねー。しかしあんな女がきたらさすがに珍も断るだろう。神林はすこし安堵して。
「じゃあ、何かの間違いだろう。俺はちゃんと予約したぞ。」
「そうですよね、いくら珍がアキコワダが好きといっても。」
「!?止まれ、やられた。」
「どうしたんですか?痔がきれました?」と松村がのほほんと聞く。こいつあとで殺す。
「奴だ、珍があぶない。車をすぐにもどせ!」
「は、はい」なにもわからずに返事をして、松村は車をホテルにむかわせる。神林は携帯でホテルの部下に連絡をとりながら、内心舌打ちしていた。ぬかった、奴は変装のプロだ。当たり前じゃないか奴は「闇のアクター」なのだから。

俺はグロックを珍にむかって構えていた。俺愛用の自動拳銃だ。強化プラスチックが多用されたこのボディは女、子供でも片手で扱えるぐらいだ。ゆっくりと珍に近づいていった。
「ソ、ソンナ・・・女ジャナカッタノカ?」
珍はまだなにもわかってないらしい。照準を奴の眉間にあわせると、
「あんた、まだこの日本を、いやこの新宿をしらないらしいな」
「頼ム命ダケハ助ケテクレ、金ナライクラデモヤルネ。」
蛇に睨まれたガマガエルのように脂汗をかきながら命乞いをする珍に。
「あんたのせいで、一人の少女が・・・ここまで言えばわかるだろう。その落とし前はつけさしてもらう。」
さっさとこの豚にとどめをさして仕事を終えようとしたとき、突然、ドアの外から
「珍さん、大丈夫ですか?」と声が聞こえてきた、ドアに一瞬気をとられた瞬間。珍はその巨体にあわないスピードで素早く俺の銃を蹴り飛ばした。なるほどただのでぶじゃないってことか、俺はバク転して距離をとり、奴の追撃をかわした。
「ナカナカ、ヤルネ、デモ次ハ死ヌネ。」
「余裕だな、外の連中呼ばなくていいのか。」蹴られた手首がおかしい、どうやら折れてるようだ。
「素手デワタシニ勝ッタ人ハイナイアルネ。」
やつがじりじりと近寄る、俺は愛銃までの距離を測っていた、手をのばせば届きそうだがそこは奴の制空圏内だ。やつが隙をみせた一瞬しかないな。それまでは耐えるしかない、耐えられればの話だが。
「きえええー。」
奇声をあげながら奴が襲いかかってきた。1発2発、よける3発目、駄目だボディにパンチが決まった
昼踊りぐいした白魚が踊りながらでてきそうだった。
「死ね!」珍が勝負に出た、後ろ回しげりをしようとして背中を見せた瞬間、俺はグロックの方に飛び込んでいった。奴の蹴りで髪の毛が2、3本もっていかれる。銃をてにとり受け身をとる振り返って奴に銃を向けた。引き金をひこうとしておかしなことに気づいた。珍が死んでいる。おそらく回し下痢の最中に狙撃されたのだろう片足をあげたままバレリーナのような格好で死んでいた。いったい誰が?俺は窓にそっと近寄り外をみる狙撃者の姿は見あたらない。ようやく鍵を壊して野々村組のやくざどもが部屋に入ってきた、奴らは死体に気づくと銃を抜いているはずのない暗殺者を探しはじめた。俺は素早く猫になりきると「にゃあ」と鳴いた。
「なんだ猫か、おうし、よしよしよし」
俺はしばらくその猫好きのやくざのために、めだか師匠におそわった猫の芸を30分ほどしてやった。俺の演技力で奴はすっかり本物の猫だと思ったらしく、家にもって帰ろうとするのを引っかいてどうにかこうにか事務所にたどり着いた。

事務所にたどりついて、依頼者に報告と必要以上に払おうとする依頼者との一悶着があったあと、俺は
マッカランをロックでちびちびと飲りながら、今日の事件について考えていた。あの一発の弾丸、あれは、俺を救ったものなのか?それとも。俺を狙ったものなのか?猫崎は頭のネジが外れそうになるのがわかった。考えてもしょうがない、俺はグラスを空けると携帯のメールをチェックした。俺は携帯を3つ持っているプライベート用の携帯、闇のアクター用、売れない役者、猫崎俊郎として。プライベート用の携帯をチェックすると弥生からメールがはいっていた。「こんやXXホテルで」それだけのそっけないメール。あいつらしいといえばあいつらしい。もう別れてから2ヶ月も経つ。あの日、弥生の下着を盗んでるところを見つかり、下着を被って「仮面ライダー!」と誤魔化そうとしたところ、「・・・楽しい?」ときかれたあの日。質問に沈黙で返し、それに沈黙で答えたあの日。もう忘れよう、きっと弥生も忘れてるだろう。俺は愛車のコルベットに乗り込み向かおうとしたが、歩いていった方が早いとわかり、徒歩でホテルに向かっていった。

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